甘く見ないで!あまいけど

わたくし、甘いだけのみかんは好きじゃないのです。
酸味と甘みのバランスが取れたみかんが大好き。
酸味6:甘み4ね。
以前、昭和の雰囲気が今なお残る商店街の八百屋でみかんを品定めしていたら、
「お姉ちゃん、みかん欲しいん?」
と八百屋のオヤジに声をかけられ
「うん。」と私。
オヤジ「うちのはどれでも甘いよ~」
私「いや、甘くない酸っぱいのをね。」
と、答えたら
急にしかめっ面になって
「あんた、ややこしい人やねぇ」 と。
あ~、
あの頃はお姉ちゃんと呼ばれたんだった。
最近はもっぱらお姉さんと呼ばれることが多い。
(30代まで=お姉ちゃん、40代=お姉さん)※独自の公式
ちゃんとオヤジたちも区別しているようだ。
話を戻そう。
私たちが食べているあの馴染みあるみかん。
本名は温州みかん
(うんしゅうみかん:Citrus unshiu)という。
温州(中国の浙江省にある)なんて名前がついてるから中国から伝わったと思いがちなんだけど
実は中国からきたものではありません。
日本原産のみかんです。
その昔、ある書物に中国・温州で取れるみかんがとても見事で、素晴らしいと書かれてあって、それに匹敵するものとして、「温州みかん」と名付けられたと考えられている。
温州センパイ、まじリスペクトっすよ。
いわゆるオマージュっすよ。
そんなややこしい日本原産の温州みかんだけど
誕生したのは日本の鹿児島にある長島という島。
ある柑橘のタネから発生し、長い年月をかけて偶然に実をつけたらしく、
人が交配したりすることなく、自然に落ちているタネから育って実ったという。
ほぅほぅ、偶然に実をつけたのはわかったけど
そもそも、そのタネ、どこから来たのよ?
と、オタク気質がムクムクと湧き出て調べてみたら
むか~し、日本が唐(中国)に派遣していた貿易使節、遣唐使が持ち帰った説を見つけた
でもさ、もし
そのタネをありがたく唐から頂戴したのなら、
丁寧に土に植えて水をやり、人が手をかけて育てるはずだよね。
でも、
そうではなくて偶然に発生して実をつけたとなっているってことは、
そのタネも偶然遣唐使の足の裏とか、ニットの袖か何かについて来たのだと思うんだよね。
そこで、ちょっと遣唐使たちの足取りを追ってみたのよ。
そしたら、なんと!
温州みかんの発祥の地、鹿児島・長島は直接の発着場所ではなかったことが判明。
じゃあ、なんでタネがここに落ちてたんだ?
ますます謎が深まるばかり。
それでもう少し調べてみると
唐から帰国するルート上の東シナ海は、空や海が荒れやすく船が難破することはよくあったそう。
そんな中、778年、唐から出た船が暴風に遭い難破し、長島に漂着したという記載を見つけた。
遣唐使漂着の地として、長島には記念碑がある。
そのときにタネが持ち込まれたかどうかまでは定かではないが、
つまり、タネを持ち帰る意図もなく、さらに長島に寄る予定もなく
いくつもの偶然が重なって、人知れずタネから芽を出し、成長し、長い時間をかけて何代も生まれ変わりを繰り返して、あのみかんができたのですよ。
すごいヤツ。みかん。
甘く見てた。ゴメン
まあね、
「偶然」と言っても、人間サイドから見たものであって、植物側からすると必然だったのかも知れないわけで。
植物は基本的に動けないので、
動けない中で子孫を繁栄させるには、優れた(植物の)知恵を使わなければなりません。
タネを遠くに運んでもらうためには、香りを出したり、美味しい果実をつけて虫や鳥、人間を引き寄せ運んでもらうわけです。
植物の知恵を上手に使ってなんとか他の地に運ばれたタネではあるけれど、残念ながら場所は選べない。
育つのに条件が悪いところに運ばれてしまったタネは、芽を出しません。
でもこれはタネ自ら芽を出さないことを決めたのです。
そんな条件の悪いところで芽を出したところで、しっかりと生育できない、エネルギーの無駄遣い、もったいないとわかっているのです。
植物のタネは、自分にとって最も適した場所とタイミングを見計らって芽を出す知恵を持っています。
きっとあの時、偶然に届いたタネは、
長島の地を自分が育つのに適した場所だと気づいて芽吹いたのかもしれません。
そう思うと、あの丸くて小さくてころんとしたみかんに長い歴史と偶然と必然と植物の叡智がぎゅっと詰まってるような気がして、愛おしくなる今日この頃なのです。